4番バッターを外からばかり取りたがるのは馬鹿な人事の特徴

 

【序章】外を見る前に、社内を見ているか?

企業が人材を求めるとき、多くは外部に目を向ける。求人を出し、転職市場に出る人材を探し、優秀そうな履歴書に期待をかける。だが、その前に“社内”を見たことがあるだろうか。

近年は、中外製薬のように、社員の「手挙げ」によって異動を可能にするジョブポスティング制度を導入する企業も増えてきた。社員自らがキャリアを考え、選ぶというこの流れは、年功序列を前提とした日本型人事への反省として歓迎される動きだ。

しかし、それでもまだ一歩足りないと私は考える。
それが「社内スカウト制度」である。


【第1章】社内スカウトとは何か──公募よりも“仕掛ける”仕組み

社内スカウトとは、部署や事業部が、社内にいる人材を見定めてピンポイントで声をかける制度だ。公募が「待ち」の姿勢なのに対し、スカウトは「攻め」だ。さらにいえば、これは社外からの中途採用の“社内版”とも言える。

人材データベースを整備し、スキルや実績、志向性などを可視化すれば、部署側はより正確に必要な人材をスカウトできる。
そして、ただ声をかけるだけではなく、条件提示(報酬や役職など)を含めて交渉の余地を持たせることがポイントになる。


【第2章】スポーツに学ぶ配置戦略──まずチーム内から補う

この発想は、スポーツの世界では当たり前だ。
試合でポジションが空けば、まずはチーム内の選手をコンバートできないかを検討し、それでもダメならセカンドチーム(2軍)、それでも足りなければ外部から移籍補強という順番が一般的である。

企業も同じではないか。
すでに社内文化を理解し、意思決定の癖や空気を知っている人材のほうが、圧倒的に立ち上がりが早い。外部から来た人が活躍できないことがあるのは、能力の問題ではなく、文脈の不一致であることが多い。

例として、サッカースペインリーグのFCバルセロナもかつて、自前の下部組織(カンテラ)出身者を主軸に据えていた。なぜなら、独自の戦術「ティキタカ」を体現するには、その哲学を幼い頃から身体で理解している人材のほうが適していたからだ。

企業にも、「うちのやり方」「うちの空気」はある。その“戦術”に合った人材を社内からスカウトするのは、実に合理的な判断である。


【第3章】社内スカウトのメリット

社内スカウト制度には、いくつもの実利的な利点がある。

  • カルチャーフィットの確実性:すでに社内文化を理解しており、適応に時間がかからない

  • 即戦力としての立ち上がりが早い:オンボーディングコストが小さい

  • “惜しい離職”の防止:「会社を辞めたいわけじゃないけど、今の上司と合わない」という社員を別部署で活かせる

  • 戦略的な人材の再配置:成長中の部署に必要な人材を、成熟部署からピンポイントで移せる

  • 社内競争の活性化:地味な部署でも条件で人材を呼べるようになり、報酬構造に動きが出る

特に最後の点が重要だ。
今の企業は、「全体で貧しくなる」方向に引っ張られがちだが、社内スカウトを制度化することで「報酬の自然なインフレ」が起こり、条件の適正化が進む。


【第4章】当然、課題もある──制度を腐らせない工夫

スカウト制度は万能ではない。注意しなければ、次のような弊害が生まれる。

  • 不透明な人選:「えこひいきでは?」という社内不信につながる

  • 人材の偏在:人気部署に人が集中し、基盤業務が疎かになる

  • 上司の引き留め干渉:スカウトされた部下の異動を妨害しようとする

  • 評価制度との整合性:条件交渉が、既存の人事制度とぶつかる

  • 異動後の孤立や期待過多:周囲との関係が築けず、パフォーマンスが低下する

これらは、制度そのものの問題ではなく、運用と設計の問題だ。
明文化されたルール、評価基準の一貫性、異動後の受け入れ体制が整っていれば、多くは回避できる。


【第5章】人材活用の順序を取り戻せ──“探す”という戦略

最も重要なのは、企業としての「人材活用の順序」を取り戻すことだ。

  1. まず、現在のチーム内で何とかできないか考える

  2. 次に、社内の他部署から適任者をスカウトする

  3. 若手・育成ラインにチャレンジを与える

  4. それでも埋まらないときに、初めて外部から採用する

この順序を崩すと、採用効率は下がり、人材の定着率も落ちる。
社外採用は「最後の一手」でいい。


【結び】「採る前に、探せ」

人がいないからといって、いきなり外に出ていくのは、スポーツで言えば“外国人助っ人”ばかり集めてチームを崩す監督のようなものだ。

社内にいる人材を、もう一度見直す。

部署が責任を持ってスカウトし、条件を提示し、迎え入れ、育てる。
それは単なるコスト削減ではない。企業文化の継承であり、組織設計の根幹である。

採用力を語る前に、「社内を見る目」があるかどうか。

採る前に、探せ。
それが、未来の組織をつくる視点である。


詳しく読む↓
人材はまず内から探せ──企業が整えるべき『社内スカウト制度』という発想(2025.8.1)

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