個人に遵法意識が欠けてるんじゃない、会社に遵法意識が欠けてるのだ
夜遅くのメールに気づかなかった部下に「社会人失格」と叱責。社内文化が絶対の“過去”にとらわれた上司のハラスメントと解決策|FNNプライムオンライン
序章|ハラスメントは「文化として継承される現象」である
ある会社で、若手社員が深夜メールに即座に対応できなかったことで上司から「社会人失格」と叱責された。だが、その会社では深夜対応が常態化しており、それに従わなければ評価が下がる空気があった。
問題はこの叱責が“個人の暴走”ではなく、組織に染み付いた慣習と無知の再生産だったという点にある。
本来、深夜対応は時間外労働に該当し、22時以降は深夜割増も必要となる。36協定の範囲を超えれば違法だ。にもかかわらず、その法的責任すら認識されず、“常識”として部下に強制されている。
こうした無知は、加害者にも被害者にも共通する。上司は違法性を理解せず、部下は「おかしい」と言語化できない。知識の欠如が支配と沈黙を生み、違法状態が放置されている。
そして問題は、そんな無知な人間を教育もせずに管理職に任命している企業側の構造的責任にある。多くの企業は、年功や営業成績だけで適性を見ずに役職を与えている。任命を“ご褒美ポスト”としか見ていない。
ハラスメントは“性格の問題”ではない。組織設計と教育放棄が生む構造的問題であり、偶然ではなく企業が引き寄せた結果なのだ。

第1章|無知が生む“疑似支配社会” — 加害者と被害者の共通点
ハラスメントが起こると、加害者の人格ばかりが問題視されがちだ。だが、なぜそれが止められなかったのか? という視点が抜けている。
被害者が声を上げられないのは、「上司だから」「評価が下がるかもしれない」といった不安があるからだ。だがこれは、法的には理由にならない。
職場で声を上げるには“知識”が必要なのだ。
一方、加害者側も多くの場合、違法性を認識していない。深夜対応は当然、叱責は指導の一環──という思い込みだ。
日本で拳銃所持やシートベルト未着用、無銭飲食は少ない。それらは「違法」と誰もが知っているからだ。だが労働法は、知らない人が圧倒的に多い。
ハラスメントの定義を知らない
労働時間の概念を知らない
職務権限と法的責任の区別がつかない
この“無知”こそが、加害者にも被害者にも共通する構造的原因である。
第2章|悪いのは人格“だけ”ではない — 行為責任と環境責任の分離
行為自体をしたのは上司本人だ。しかし、そこで思考を止めてしまっては再発を防げない。
ここで重要なのは、「行為責任」と「環境責任」の分離である。
行為責任…個人が負う直接責任(暴言、命令)
環境責任…会社が負う構造的責任(任命、教育、制度)
企業は多くの場合、「個人の暴走」で片づけ、幕引きを図る。だが問うべきは、
なぜその人物が管理職に?
なぜ教育されていない?
なぜその価値観が“正しい”とされている?
という根本原因である。いずれも会社に要因があるのだ。
第3章|人事を軽く扱う企業が、ハラスメントを量産する
最大の構造的原因は、人事任命の軽視だ。
多くの企業は、年功や営業成績だけで管理職を任命している。適性や法知識、対人能力を確認する仕組みがない。任命を“昇進”と勘違いし、「誰でもできる」として扱っている。

これは、組織にとって重大な過失だ。
点取り屋が監督に向くとは限らない。マネジメントは、実務とは別の能力が求められる役割である。
第4章|解決策は、性格矯正ではなく“任命と教育の制度化”
「性格がきついから仕方ない」「怒りやすいタイプだから」──そうした性格論への逃避は無意味だ。人格は企業側で選定可能であり、避けられる問題である。
問題は、それを任命したこと、教育しなかったことにある。
では、何をすべきか。
任命前:管理職適性の評価(行動・対人・冷静さ)
任命時:労働法・コンプラ教育の義務化
任命後:定期的な更新と評価制度の導入
組織全体:周囲からのフィードバック制度の整備
つまり「任命=責任の受託」であり、「教育=最低限の防御」なのである。
欧米では、マネージャー就任前に研修受講や資格取得が義務化されている企業が多い。

つまり海外では、知識がなければマネジメント職に就けない構造になっており、企業のリスク管理としても機能している。
翻って、日本の企業はリスクヘッジの意識が低いと言わざるを得ない。
終章|ハラスメントは“引き寄せた結果”である
ハラスメントは“個人の性格が原因”でも“予測できないトラブル”でもない。
それは、以下のような組織の怠慢が招いた必然的な結果である。
任命判断に裏付けがなかった
教育を“コスト”として切り捨てた
無知でも任せて良いと軽視していた
これらを放置する限り、ハラスメントは何度でも繰り返される。
だからこそ、本気で変えるなら「人事と任命のあり方」から見直す必要がある。優秀な人材を守り、企業の信用と価値を守るためにも、“任命と教育の再設計”は避けて通れない経営課題なのだ。
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