人事評価で楽をするな、人を評価するのならもっと汗をかけ
評価制度は「平等」ではなく「公平」であるべき理由【ビジネス最前線】 | サライ.jp|小学館の雑誌『サライ』公式サイト
序章|「売上さえ高ければ評価される」時代は終わった
人事評価において完全な正義は存在しない。しかし、企業が評価に“正義を近づける努力”を怠れば、組織は確実に衰える。
元記事で示された課題は、営業成績=売上 という安易な指標が、条件差や役割差を無視してしまうという点だった。これは、ピッチャーを「勝利数だけ」で評価するようなものだ。援護点、守備力、球場の広さ、対戦相手の強さ──すべてが無視される。
同様にビジネスでも、
解約率が高い
チームを壊している
再現性がない
などは“見えない価値の目減り”であり、売上だけでは本質を捉えられない。
この“評価の思想”の欠如は、多くの企業の人事制度にもそのまま当てはまっている。本稿では、公平評価の基礎、HRが持つべき思想、MLBの指標設計から読み解く評価の本質を論じる。企業が強くなる鍵は、人事が評価基準を創れるかどうか にある。

第1章|“平等”と“公平”の違いを誤解した企業は必ず失敗する
数字で横並びに評価する「平等評価」は最も簡単だ。しかし、平等は実態を無視するため、企業を弱くする。
対して「公平評価」とは、置かれた条件や難易度を踏まえたうえで比較可能性を整えること である。同じ営業職でも条件は大きく異なる。
▼役割・難易度・条件の違い(表)

これらを無視して「売上だけ」で評価することは、難易度の違うコースを走ったランナーをゴールタイムだけで比較するようなものである。
公平評価とは、こうした“条件差の補正”を前提に設計されるべきなのだ。
第2章|採用に若手を充てる企業はなぜ弱いのか──感情採用の危険性
一部の企業は、新卒や若手を採用担当に置く。「年齢が近い」「気持ちが分かる」という理由だ。しかし採用とは、企業の未来の資本を決める“投資判断”であり、感情で行う領域ではない。
採用には、
事業戦略の理解
人材要件の設計
配置とジョブの整合性
長期的な企業価値への影響 など、構造的理解が不可欠
など必要なスキルや経験が多く、経験の浅い若手だけに任せる領域ではない。
若手配置は「仲良くなれそうか」という感情基準を招き、採用の質を著しく落とす。採用基準を“空気”に委ねれば、企業は必ず弱くなる。
企業の強さは、採用を価値基準で統一できるかどうか で決まるのだ。
第3章|HRが“評価基準”をつくれる会社だけが強くなる
優れたHRは、社員を数字で並べるのではなく、企業が評価すべき価値そのものを設計できる存在 である。HRは会社の中で唯一、「何を評価すべきか」を定義できる部門であり、思想を持てるかどうかで企業力が決まる。
■HRが担うべき“評価思想”の設計
KGI(最終目標)の理解
価値の源泉の特定
KDI(行動要因)の分解
KPI(成果指標)の設計
難易度補正の方針
総合貢献度の定義
アメリカのメジャーリーグ(MLB)のセイバーメトリクスは、野球を統計的に分析し「本質的価値」を可視化する仕組みだが、HRが行うべきは、これにおける“数値設計”と同じである。
企業の成長は、HRが自社に必要な価値を設計し数値化できるかどうか にかかっており、それをできるHR人材こそが優れたHRなのだ。
第4章|ホームラン数では選手を評価できない──MLBに学ぶ評価基準の本質
日本のプロ野球でもMLBでは長らく「本塁打数」「打率」「打点」といった分かりやすい指標で選手が評価されていた。しかし、本塁打数には次のような環境差が存在する。
球場の広さ・壁の高さ
標高差による飛距離の変化
対戦投手の質
チーム戦略と守備配置
打順によるチャンス数
つまり、同じ本塁打数でも価値はまったく違う。
MLBはこれを解決するために、“WAR(Wins Above Replacement)”を設計した。打撃、走塁、守備、ポジション難易度、球場補正──あらゆる要素を統合し、選手が勝利にどれだけ貢献したかを可視化した。
評価とは、環境差を補正し、本質的な貢献を見つける作業 である。これは企業HRにおける評価制度の思想と完全に一致する。
第5章|会社にも“自社版WAR”が必要になる──評価制度は思想の競争である
企業もMLBと同様、業種・商材・顧客層で社員の条件が大きく異なる。全員を一つの尺度で評価することは不可能であり、評価制度は“会社固有の思想”で作るべきだ。
▼会社タイプ別:重視ポイント(表)

企業が強くなるかどうかは、HRが自社の“勝ち筋”を言語化し評価基準として落とし込めるかどうか にかかっている。
そのためにはHRが会社の全容と、経営層の考える会社の将来像を把握しておく必要がある。
第6章|自社版のWARを創る
自社版 WAR を構築する目的は、自社にとっての「価値の本質」を測る物差しをつくること である。売上や件数のような単一指標では見えない貢献を、構造的に可視化するための仕組みだ。
▼自社版WAR構築プロセス(表)

このプロセスの本質は、“数字を見る”のではなく、“数字の意味を構造化する”こと にある。
企業により正解は異なるが、評価制度を設計する行為自体が、自社の戦い方・勝ち筋を定義する取り組みになる。優れたHRは、評価基準に基づいて社員を並べるのではなく、評価基準そのものをつくる力 を持つ。
自社版WARの構築とは、会社の知性を形にする作業であり、企業の未来を決定づける基盤となる。
終章|評価制度は“企業の知性”そのもの
評価制度は、人事部のツールではなく、企業の知性そのもの だ。平等評価に逃げ、感情採用に流され、KGIと評価軸が乖離した企業は衰退する。一方で、評価に思想を持ち、HRが価値基準の設計者として機能する企業は強くなる。
優れたHRとは、単に数字を並べるのではなく、数字に意味を与えられる存在 である。
人事を軽視する企業に未来はない。複雑化した環境で勝ち続けるのは、評価基準を自社でつくり込める企業だけだ。
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